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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)55号 判決

新潟県三条市南四日町4丁目3番5号

原告

金澤樹脂工業株式会社

代表者代表取締役

金澤興宗

訴訟代理人弁理士

吉井昭栄

吉井剛

吉井雅栄

宮城県仙台市青葉区五橋2丁目12番1号

被告

アイリスオーヤマ株式会社

代表者代表取締役

大山健太郎

訴訟代理人弁護士

吉武賢次

同弁理士

三好千明

飯島紳行

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

「特許庁が平成6年審判第1759号事件について平成6年12月27日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告(審判被請求人)は、名称を「ホースリール」とする実用新案登録第1984515号考案(昭和61年1月14日実用新案登録出願、平成2年7月16日出願公告、平成5年9月24日設定登録。以下、「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告(審判請求人)は、平成6年1月20日、本件考案の実用新案登録を無効にすることについて審判を請求し、平成6年審判第1759号事件として審理された結果、平成6年12月27日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は平成7年2月9日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

ホースを巻き取るリール1が互に結合された左右フレーム2、3の間に回転自在に支持されているホースリールにおいて、左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体7、8を有しており、対応する杆体の一方の先端にソケット14が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで、杆体の中心軸に沿ったねじ15で結合したことを特徴とするホースリール(別紙図面A参照)

3  審決の理由の要点

(1)本件考案の要旨は、その実用新案請求の範囲に記載された前項のとおりのものと認める。

(2)これに対して、原告は、本件考案は下記の刊行物に記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法3条2項の規定により登録を受けることができないものであるから、その登録は同法37条1項の規定により無効とすべきであると主張した。

a 意匠登録第654439号公報(昭和60年6月25日発行。以下、「引用例1」という。)

「ホースリールのドラムを回転自在に架設する左右のフレームを4本の中空パイプで連結する構造が開示されていること」(別紙図面B参照)

b 意匠登録第401884号公報(昭和50年8月1日発行。以下、「引用例2」という。)

「ホースリールのドラムを回転自在に架設する左右のフレームより中空の杆体を一体に突設し、この杆体間に桟体を突き合わせ状態に架設し、突き合わせ部の軸方向にねじを螺入して左右のフレームに連結する構造が開示されていること」(別紙図面C参照)

c 米国特許第2190013号明細書(以下、「引用例3」という。)

「この明細書には、以下のイからハの事項が記載されている。

イ ダイキャスト製の巻枠を2分割し、くぼみを持たせ組立式にすることにより従来の問題点を解決した。各半分の構成部分は完全に一致するように対向する開口部に合致する案内部を備え付ける。その巻き枠はねじやその他の有効な方法により互いに固定される。

ロ 第1図の互いに対向する端面上に構成部分20のくぼみ24に正確に合致するような案内部13が備わっている。また、円筒状の部分11に構成部分20の案内部23を受け入れるくぼみ14が備わっている。

ハ 突起または案内部13および23には、頭部12および(または)22を通過し、そして先細り孔27および17にそれぞれねじ込まれるねじ31を受け入れるための穴があけられると共に雌ねじが切られている。

この記載から、ホースリール製造業界で、左右に分割した半体同志を突き合わせ突き合わせ止着の際中空杆体を相手方の同形状断面のソケット孔に挿入し、軸方向にネジを螺入して突き合わせ半体同志を結合させる構造が開示されていること」(別紙図面D参照)

そして、原告は、引用例1もしくは引用例2のようなホースリールの左右フレームの結合に際して、引用例3の公知の結合方法を採用することは、どちらもホースリールに関する公知文献である以上、しかもどちらもホースリールをその分割体を突き合わせて結合して組み立てる技術に関する文献である以上、ホースリールの当業者ならば両者の技術を組み合わせることは容易に推考できることで、このようにして作られたホースリールは本件考案のホースリールそのものであり、当然本件考案と同じ作用効果を発揮することになると主張している。

(3)原告の主張について検討する。

〈1〉 原告が主張しているように、引用例1には、ホースリールのドラムを回転自在に架設する左右のフレームを4本の中空パイプで連結する構造が開示されている。しかし、引用例1のホースリールは、左右フレーム間に配置されている複数の杆体が、左右フレームに対し別体に形成されているものであり、左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体7、8を有する本件考案のものと明らかに異なる。

〈2〉 次に、引用例2について、原告は「ホースリールのドラムを回転自在に架設する左右のフレームより中空の杆体を一体に突設し、この杆体間に桟体を突き合わせ状態に架設し、突き合わせ部の軸方向にねじを螺入して左右のフレームに連結する構造が開示されている」と主張するが、引用例2(特に、A-A線断面図参照)からみて、引用例2記載のものがそのような構成になっているのか否か明らかでない。しかし、いずれにしても、本件考案の中空の杆体に相当する上記桟体は、左右フレームに対して別体に形成されたものであるから、この点において引用例2記載のものは、本件考案のものと異なることは明らかである。

〈3〉 原告は、引用例3には前記イないしハの記載があり、この記載から「ホースリール製造業界で、左右に分割した半体同志を突き合わせ突き合わせ止着の際中空杆体を相手方の同形状断面のソケット孔に挿入し、軸方向にネジを螺入して突き合わせ半体同志を結合させる構造が開示されている」と主張している。

しかし、引用例3記載のものは巻枠に関するものであり、一方、本件考案はホースリールにおける左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体に関するものである点において、両者は相違する。

また、本件考案と引用例3における上記開示において、「ソケット」の用語を用いてそれらの構成をそれぞれ表現しているが、「ソケット」の用語は、例えば、下記辞典あるいは広辞苑の用語の説明においても分かるように、技術分野、機能あるいは構造上の相違等によりその意味するところは必ずしも同じではない。

「ソケット」の用語は、例えば、日刊工業新聞社昭和59年12月10日発行「機械用語辞典」315頁には、「両端に雌ねじを切った短い管状の管継。管継ぎ手としてひろく用いられるもの。ソケット並びにこれに似た部品による接続方法をソケット継手という。ふつう両端にめねじを切っているが、一方をおねじにしたものをとくにめすおすソケットという。受口、電球の口金を取り付ける口。」と説明され、株式会社岩波書店昭和51年12月1日発行「広辞苑」では、「電気器具の一。電線の先端に取り付け、それに電球などを差し込んで電流を導く。」と説明されている。

そして、本件考案及び引用例3における「ソケット」の用語についても、本件考案の実施例及び引用例3に記載されたものを参酌しても、共に上記用語辞典あるいは広辞苑のものと、即同じものを意味するものとは解しにくい。

したがって、本件考案の「ソケット」については、実施例を参酌し、引用例3のものについては、その記載事項に基づいて、それぞれ解釈する方が適当であるといえる。

そこで、本件考案の「ソケット」は、最もその構成が明記された第2図に示された形状構造のものを意味するものと解し、また、引用例3記載のものは、その第1図の如く対向する端面上に構成部分のくぼみに正確に合致するような案内部があり、円筒状の部分に構成部分の案内部を受け入れるくぼみがあるものと解して検討する。

してみると、第2図に示された本件考案のソケットは、部品の数も少なく組立の手間もかからない、簡単な構造を有しており、このような構造の点において引用例3記載のものとは相違し、またその構造の点については引用例3に示唆する記載もない。

〈4〉 以上の点を踏まえると、原告の主張するように引用例1あるいは引用例2記載のものに引用例3記載のものを適用したとしても、本件考案を構成するものとはなりえないので、本件考案は、引用例1、引用例2及び引用例3記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない。

(4)以上のとおりであるから、原告の主張する理由及び証拠方法によっては、本件考案の登録を無効にすることはできない。

4  審決の取消事由

審決は「引用例1あるいは引用例2記載のものに引用例3記載のものを適用したとしても、本件考案を構成するものとはなりえないので、本件考案は、引用例1、引用例2及び引用例3記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない」と説示している。しかしながら、審決は、引用例1ないし3に記載されている技術内容の認定をいずれも誤り、かつ、考案の進歩性の判断方法を誤った結果、上記のような判断に至ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)引用例1記載の技術内容の誤認

審決は、引用例1のホースリールは「左右フレーム間に配置されている複数の杆体が、左右フレームに対し別体に形成されている」と認定している。

しかし、別紙図面BのA-A’断面図及びB-B’断面図で明らかなように、引用例1記載の複数の杆体は、ボルトが挿通され、左右フレームに対しナットで強固に締め付けられて、一体的に止着されているものである。そして、本件考案が要旨とする「左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体」は、フレームと杆体とが「1つ物」であるものに限定される理由はない。したがって、引用例1記載の複数の杆体は、たとえ別体であっても、「左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体」の概念の範疇に含まれるというべきであるから、審決の上記認定は誤りである。

(2)引用例2記載の技術内容の誤認

審決は、引用例2の「桟体は、左右フレームに対して別体に形成されたものである」と認定している。

しかしながら、審決は、引用例2記載のホースリールの左右フレームには、短い水平突出桟体が一体に突設されていることを看過している(その左右の短い水平突出桟体の間に、審決がいう桟体がソケット構造で嵌合され、ねじで結合されるのである。)。したがって、審決の上記認定は短絡すぎる。

(3)引用例3記載の技術内容の誤認

審決は、引用例3記載のソケットは「対向する端面上に構成部分のくぼみに正確に合致するような案内部があり、円筒状の部分に構成部分の案内部を受け入れるくぼみがあるもの」としたうえ、「本件考案のソケットは、部品の数も少なく組立の手間もかからない、簡単な構造を有しており、このような構造の点において引用例3記載のものとは相違し、またその構造の点については引用例3に示唆する記載もない」と認定している。

しかしながら、引用例3記載のソケットが、雌となるソケット孔14、雄となる差込み体23及び両者を中心軸に沿って結合するボルト31から成る三体構造のものであることは明らかである。この三体構造は、本件考案が要旨とする雌となる杆体の一方の先端に形成されるソケット14、雄となる他方の杆体の先端部及び両者を中心軸に沿って結合するねじ15から成る三体構造のものと全く変わりがない。そして、引用例3記載のものは、ソケット継合構造を複数個設け、より強固に結合しているが、リールは金型によって量産するプラスチック製品が大部分であって、金型さえそのように作製すれば製作も組立ても手間がかからないものであるから、審判の上記認定も誤りである。

(4)進歩性の判断方法の誤り

審判手続における原告の主張は、引用例1あるいは2記載のものに、引用例3記載の結合手段(左右分割体の一方のソケット孔に、他方の先端部を差し込んで、ねじで確固かつ簡単に結合する手段)を適用すれば、本件考案の構成がきわめて容易に推考できるというものである。

しかるに、審決は、本件考案と引用例1及び2記載のものとを対比して、引用例1記載のものは「本件考案のものと明らかに異なる。」、引用例2記載のものは「本件考案のものと異なることは明らかである。」と判断しているのみであって、引用例1あるいは2記載のものに引用例3記載の結合手段を適用することによる容易推考性については、何ら判断していない。

そして、引用例3記載の巻枠はワイヤーリールであるが、技術的にはホースリールと同一分野のものであるから、当該技術分野においては、フレームを含むリール本体を左右に2分割し、一方にソケット孔14を形成し、これに他方の先端部23を差し込んで、中心軸に沿ったボルト31で結合する手段は、前記のとおり本件出願前に公知である。

この公知の結合手段を引用例1あるいは2記載のものに適用すれば、当然の帰結として、桟体の突き合わせ部の一方にソケットを形成し、他方にそのソケットにぴったりと嵌合する差込み先端部を形成して、両者を嵌合してボルトあるいはねじで結合することになる。したがって、当業者ならば、引用例1あるいは2記載のものに、公知の上記結合手段を適用することによって、きわめて容易に本件考案の構成に想到しうることは明らかである。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本件考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  引用例1記載の技術内容について

原告は、本件考案が要旨とする「左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体」は、フレームと杆体とが「1つ物」であるものに限定される理由はないから、ボルトが挿通され、左右フレームに対しナットで強固に締め付けられて一体的に止着されている引用例1記載の複数の杆体は、たとえ別体であっても、「左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体」の概念の範疇に含まれると主張する。

しかしながら、「一体」とは、「ひとつのからだ」あるいは「同体」という意味である。そして、本件考案の実用新案公報には、「従来、この種ホースリールは、第5図に例示するように、リール1’を両側から回転自在に支えている左右フレーム2’、3’が、これらとは別体の杆体7’、8’を介して互いに結合されている。」(1欄16行ないし20行)、「接合箇所が多く存在するので、全体の強度が充分でなくなる欠点があった。この考案は、ホースリールにおけるこのような問題を解決することを目的とする。」(2欄6行ないし9行)と記載され、従来例として図示されている別紙図面Aの第5図には、引用例1記載のホースリールと構造的に同一のものが記載されている。したがって、本件考案が要旨とする「一体」は、「別体」との対比において解釈されるべきであるから、ボルトあるいはねじで左右フレームに対して止着されている杆体は、いかに強固に締め付けられ一体的に止着されていても「別体」の杆体であり、ねじ等で止着されることなく左右フレームと同体の杆体のみが「一体」の杆体というべきである。

したがって、引用例1記載の「複数の杆体が、左右フレームに対し、別体に形成されている」とした審決の認定に誤りはない。

2  引用例2記載の技術内容について

原告は、審決は引用例2記載のホースリールの左右フレームには短い水平突出桟体が一体に突設されていることを看過していると主張する。

しかしながら、引用例2記載の桟体(原告のいう左右の短い水平突出桟体の間に嵌合され、ねじで結合される桟体)が、左右フレームと別体のものであることは、別紙図面CのA-A線断面図により明らかであるから、引用例2記載の桟体は、「左右フレームに対して別体に形成されたものである」とした審決の認定にも、誤りはない。

3  引用例3記載の技術内容について

原告は、引用例3記載のソケットは雌となるソケット孔14、雄となる差込み体23及び両者を中心軸に沿って結合するボルト31から成る三体構造のものであり、この三体構造は本件考案が要旨とする三体構造のものと全く変わりがないと主張する。

しかしながら、引用例3記載の結合手段は、Fig.1に示されている対向する端面上に、構成部分20のくぼみ24に正確に合致する案内部13を設け、円筒状部分11に構成部分20の案内部23を受け入れるくぼみ14を設けて行うものである。すなわち、同結合手段は、結合される双方に、案内部とくぼみとを設けて行うものであるから、これと比較すると、「本件考案のソケットは、部品の数も少なく組立の手間もかからない、簡単な構造を有しており、(中略)その構造の点については引用例3に示唆する記載もない。」とした審決の認定は、正当である。

4  進歩性の判断方法について

原告は、審決は原告が審判手続において主張した、引用例1あるいは2記載のものに引用例3記載の結合手段を適用することによる容易推考性について何ら判断していないと主張する。

しかしながら、審決は、「引用例1あるいは引用例2記載のものに引用例3記載のものを適用したとしても、本件考案を構成するものとはなりえない」と判断し、その結果、「引用例1、引用例2、及び引用例3の記載の考案に基づいて本件考案は、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない。」と判断している。したがって、審決が引用例1あるいは2記載のものに引用例3記載の結合手段を適用することによる容易推考性についての判断を遺脱しているという原告の主張は、失当である。

なお、引用例3には、フレームを含むリール本体を左右フレームに2分割することは、明示的な記載はおろか、示唆すらされていない。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本件考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いのない甲第5号証(実用新案公報。以下、「本件公報」という。)によれば、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が、下記のとおり記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本件考案は、庭の水まきや洗車などに使うホースを巻き取るホースリールに関する(1欄13行、14行)。

従来、この種のホースリールは、第5図に例示するように、リール1’を両側から回転自在に支えている左右フレーム2’、3’が、これらとは別体の杆体7’、8’を介して互いに結合されている(1欄16行ないし20)。

このような従来のホースリールは、フレームを構成する部品の数が多く、組立も手間がかかるので、製造コストが高くついた。また、鉄製フレームの場合は、溶接箇所が多いため、溶接ひずみによるガタつきを生ずることがあり、プラスチック製の場合、部材間の接合がねじ止め又は嵌込みで行われるので弱く、このように弱い接合箇所が多く存在するので、全体の強度が充分でなくなる欠点があった。

本件考案は、ホースリールにおけるこのような問題を解消することを目的とする(1欄22行ないし2欄9行)。

(2)構成

前項の問題点を解決するため、本件考案は、その要旨とする実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用したものである(2欄11行ないし16行)。

(3)作用効果

本件考案によれば、左右フレームと杆体とを別々につくって組み立てる従来のものに比べ、部品点数、組立工数とも少なく、製造コストを下げることができ、また、接合箇所が少ないので、ガタつきのない強固なフレームが得られる効果がある。さらに、杆体と杆体とを強固に接合することができるうえ、ねじが外に出ないので見栄えがよく、また、杆体が中空なので、重量が軽い割に高い剛性が得られる(4欄1行ないし16行)。

2  引用例1記載の技術内容について

原告は、ボルトが挿通され、左右フレームに対しナットで強固に締め付けられて一体的に止着されている引用例1記載の複数の杆体は、たとえ別体であっても、「左右フレームの各々が内側に向かって一体の延びる複数の中空の杆体」の概念の範囲に含まれると主張する。

しかしながら、本件公報には、リールを両側から回転自在に支えている左右フレームが、これらとは「別体」の杆体を介して互いに結合されている従来のホースリールの問題点が「プラスチック製の場合、部材間の接合がねじ止めまたは嵌め込みで行われるので弱く、このような弱い接合箇所が多く存在する」(2欄3行ないし6行)ことにあり、これを解決するために、本件考案が要旨とする「左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体(中略)を有」(2欄11行ないし13行)する構成を採用し、これによって、「左右フレームと杆体を別々につくって組み立てる従来のものに比べ、部品点数、組立工数とも少なく、製造コストを下げることができ、また、接合箇所が少ないので、ガタつきのない強固なフレームが得られる効果がある。」(4欄5行ないし9行)と記載されていることは、前記1(1)および(3)のとおりである。

したがって、本件考案においては、フレームと杆体とを「ねじ止めまたは嵌め込みで行」うものは「別体」と表現され、組立て(接合)の前の段階において一体のもののみを「一体」と表現していることが明らかである。

しかるに、引用例1記載のホースリールが、ドラムを回転自在に架設する左右フレームを4本の中空パイプで連結する構造のものであることは原告自身が主張するところであるから、引用例1記載の左右フレームと、それとは別体の中空パイプとは、両者がいかに強固に締め付けられ一体的に止着されていても、本件考案にいう「一体」のものと解する余地はない。

したがって、引用例1の「左右スレーム間に配置されている複数の杆体が、左右フレームに対し別体に形成されているものであり、(中略)本件考案のものとは明らかに異なる。」とした審決の認定に、誤りはない。

3  引用例2記載の技術内容について

原告は、審決は引用例2記載の左右フレームには短い水平突出桟体が一体に突設されていることを看過していると主張する。

原告のこの主張は、引用例2記載の「短い水平突出桟体」は、本件考案の「中空の杆体」のようにそれら同士が直接結合されるものではないが、ここには、本件考案の「左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体」を有するという技術的思想が開示されているとの趣旨と解される。

しかしながら、審決は、事実欄第2の3(3)〈2〉記載のように、引用例2には「左右のフレームより中空の杆体(注・上記「短い水平突出桟体」を指す。)を一体に突設」することが記載されているという原告の主張に対し、「引用例2(特に、A-A線断面図)からみて、引用例2記載のものがそのような構成になっているのか否か明らかでない。」としたうえ、「しかし、いずれにしても、本件考案の中空の杆体に相当する上記桟体(注・左右の「短い水平突出桟体」の間に嵌合され、ねじで結合されるものを指す。)は、左右フレームに対して別体に形成されたものであるから、この点において引用例2記載のものは、本件考案のものと異なることは明らかである。」と判断しているのであり、審決のこの判断には何らの誤りもない。

そして、仮に原告主張のように、引用例2記載のものの左右フレームから短い水平突出桟体が一体に突設されているとしても、この構成が、左右フレーム自体を(中空の杆体という構造部分を介して)直接結合させるという本件考案が要旨とする技術的思想を開示しているとみることには、大きな飛躍があるといわざるをえない。よって、原告の上記主張は失当である。

4  引用例3記載の技術内容について

原告は、引用例3記載のソケットはソケット孔14、差込み23及びボルト31から成る三体構造のものであり、この三体構造は本件考案が要旨とする三体構造のものと全く変わりがないと主張する。

そこで、まず、本件考案におけるソケットについて検討すると、前掲甲第5号証によれば、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「対応する杆体の一方の先端にソケット14が形成されており、ソケットに他方の杆体の先端部を差し込んで」と記載されているのみであり、考案の詳細な説明にも、ソケットの用語の意味についての説明は記載されていないことが認められるから、本件考案においてソケットという用語は極く普通の意味で用いられているものというべきである。したがって、本件考案におけるソケットとは、その要旨とする技術内容に照らし、左右のフレームと一体に形成された中空の杆体の他方の先端部を差し込んで結合することのできる管継手を意味するものというべきである。もっとも、前掲甲第5号証によれば、考案の詳細な説明中には、実施例として別紙図面第2図のソケットの構造が示されているが、実施例は当該考案の一つの実施形態を示すにすぎず、考案の要旨とする構成が実施例のものに限定されるとすることはできない。

これに対し、成立に争いのない甲第3号証によれば、引用例3には、別紙図面第1図に示されているように、互いに対向する端面上に、構成部分20のくぼみ24に正確に合致するような案内部13、及び、円筒上の部分11に構成部分20の案内部23を受け入れるくぼみ14が備わっている構成が示されていることが認められ、この三体構造のソケットも、左右のフレームと一体に形成された中空の杆体の他方の先端部を差し込んで結合することのできる管継手ということができるから、引用例3記載のソケットは本件考案におけるソケットに含まれるというべきである。

したがって、本件考案のソケットは、引用例3記載のソケットとはその構造において相違するとした審決の判断は誤りである。

しかしながら、引用例1あるいは引用例2記載のものに引用例3記載のソケットを適用しても、本件考案の構成を得ることができないことは、後記5において判示するとおりであるから、引用例3記載の技術内容についての審決の判断の誤りは、審決の結論に影響を及ぼさないというべきである。

5  本件考案の進歩性の判断について

原告は、審決は原告が審判手続において主張した、引用例1あるいは2記載のものに引用例3記載の結合手段を適用することによる容易推考性について何ら判断していないと主張する。

しかしながら、審判は、事実欄第3の3(3)〈4〉記載のとおり、「引用例1あるいは引用例2記載のものに引用例3記載のものを適用したとしても、本件考案を構成するものとはなりえない」と判断したうえ、結論として「本件考案は、引用例1、引用例2及び引用例3の記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとはいえない。」と判断しているのである。したがって、審決が引用例1あるいは2記載のものに引用例3記載の結合手段を適用することによる容易推考性についての判断を遺脱しているという原告の主張は、当たらない。

そして、引用例1及び引用例2記載のものが、いずれも本件考案が要旨とする「左右フレームの各々が内側に向かって一体に延びる複数の中空の杆体」を有するとは認められないことは、前記2及び3のとおりである。したがって、そのようなものに、引用例3記載の結合手段を適用してみても、本件考案が要旨とする構成を得る余地がないことは明らかである。そして、前掲甲第3号証によれば、引用例3記載の発明は「スプール」、すなわち巻枠に関するものであって、引用例3には、本件考案が要旨とする「ホースを巻き取るリール1が互いに結合された左右フレーム2、3の間に回転自在に支持されているホースリール」という構成は全く記載されておらず、また、引用例3記載のソケットは巻枠の軸の結合手段であって、本件考案のようなホースリールのフレームの結合手段ではないから、結局、引用例1ないし3記載の技術的事項を組み合わせることによって、本件考案が要旨とする構成に想到することは、当業者といえどもきわめて容易であったとはいえないと解するのが相当である。

6  以上のとおりであるから、原告の主張する理由及び証拠方法によっては、本件考案の登録を無効にすることはできないとした審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張のような誤りは存しない。

第3  よって、審決の取消しを求める原告の主張は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面 A

〈省略〉

図面の簡単な説明

第1図はこの考案の実施例としてのホースリールの斜視図、第2図は同じホースリールの縦 図、第3図は杆体の接合部の他の実施例を示 面図、第4図は杆体の付け根の部分の斜視図、第5図は従来のホースリールの斜視図である.1……リール、2、3……左右フレーム、8……杆体.

別紙図面 B

〈省略〉

別紙図面 C

〈省略〉

別紙図面 D

〈省略〉

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